第10回 アジア太平洋地域ITSフォーラム(2009 バンコク)

開催概要

【会期】 2009年7月8日(水)~7月10日(金)
【会場】 バンコク/Queen Sirikit National Convention Center
【テーマ】 Smart Move 
【参加国・地域】 22
【参加者数】 700名
【出展数】 22
【論文数など】 論文:34、ES:3、Session:68

開催報告

本大会では、治安問題や新型インフルエンザ問題等の不安もありましたが、特に大きなトラブルもなく、盛況のうちに無事終了しました。また、初日の歓迎レセプションには、アビシェット首相が来賓され、スピーチの中でタイにとってITSの発展が非常に重要であり、また、国としてもITSの推進を強く推進する旨の発言が力強く語られました。

開会式

開会式では、始めに主催のITSタイのPresidentであるDr.Sorawit Narupitiから歓迎の意を表する挨拶があり、続いてITS Japanの天野専務理事より、ITS AP(アジア太平洋地区のITS推進会議)の事務局長としての立場から歓迎の挨拶がありました。

セッションプログラム

Country Reportを含め、全18セッション、登壇者は71人になりました。
以下、セッション数を示します。( )は登壇者数。

  • Key Note Session3(9)
  • Executive Session3(18)
        7/8: Telecommunication & Safety(6)
        7/9: Telematics(5)、Traffic Information(6)
            Country Report2(10)
            Technical Session 10(34)
        7/8: Toll Parking System(4), Transport Planning and Modeling(2),
            Freeway ManagementⅠ(3)、Telamatics(4),Traffic Management and Control(5)
        7/9: Public Transport System(5),Freeway Management Ⅱ(4),Traffic Information(3)
            Sensor and Date Analysis(2),Pricing/User Charging(2)
  • Thai Track 1
        7/8: Brainstorming for establishing Traffic InformationCenter Foundation

 キーノートセッション

■7/8のキーノートスピーチ
各地域のITS推進団体の代表として、日本からITSJapan渡邉会長、欧州からERTICOのVincent Blevaque氏、米国からは昨年のNY世界会議組織委員長であったMichael Noblett氏が登壇された。また、来年の世界会議の開催国である韓国からITS韓国会長のChulho Lieu氏が登壇されました。渡邉会長からは、“Advancement of ITS in Japan”と題し、日本のITSの取り組みの考え方、官民の連携による取り組み、大規模実証実験による推進等について紹介されました。

■7/9のセッション
韓国交通研究所のDr.Young-Jun Moon、ITSスウェーデンCEOのChrister Karlsson氏、宇宙航空研究開発機構の招聘主幹開発員の小暮聡氏が登壇されました。Dr.Moonからは今後の韓国でのITSの方向として環境、モバイル、ユビキタスをキーワードとしたGreen-Intelli Travel Society(G-ITS)のコンセプトと来年の釜山世界会議の概要について、Karlsson氏からは、今後の欧州のITSの方向として、実用段階、官民協調、標準化、インテグレートをキーワードに、I2010、eSAFETY、EasyWayの取り組みについて紹介された。小暮氏からは、2010年夏に1号機が打ち上げ予定の準天頂衛星システムについて、準天頂衛星がアジア(バンコク、シドニー等の地域)で利用可能であることと、従来のGPSに対し精度、受信時間(利用時間)での優位性およびIMES(屋内メッセージシステム)について説明された。

■7/10のセッション
国立台湾大学のJason Chang教授と慶応義塾大学の川嶋弘尚教授が登壇されました。Chang教授からはSMART TRAVELERの取り組みが紹介されました。川嶋教授からは、協調システム(特にSmartway)およびその標準化について報告されました。

エグゼクティブセッション

■7/8のセッション
高知工科大学の熊谷教授がモデレータを担当され“Telecommunication & Safety”のセッションタイトルで、7人の方が登壇されました。日本から、警察庁交通局交通企画課の畠山課長補佐と総務省移動通信基盤局電波部移動通信課の上原総務技官が登壇され、畠山課長補佐からは、DSSSについて、実証実験、今後の取り組み課題等を含め紹介されました。上原技官からは、700MHzの車車間通信に関する実証実験による検討やユビキタス特区におけるプロジェクトや研究開発について紹介されました。

■7/9のセッション
午前中は“Telematics”のセッションタイトルで5人の方が登壇されました。日本からは日立製作所の小山敏氏より、ITSに関する無線通信の標準化の組織と5.8GHzのDSRCと700MHzの標準化動向について紹介されました。さらに午後のセッションでは“Traffic Information”のタイトルで日本から3名の方が登壇されました。東京海洋大学の久保信明准教授からは、アジアの大都市での高層ビル等の狭間に対する準天頂衛星(QZSS)を用いたGPSの優位性について、今回日本政府代表として参加いただいた警察庁交通局交通規制課交通管制技術室の彦坂正人室長からは、VICSおよび交通情報の高度化としてのプローブの官民での取り組みについて、また高知工科大学の熊谷教授からは、Grass Root ITSと題し、高知での市電ステーションや狭い道路での対向車情報提供等の安全システムでの地域環境を配慮した取り組みについて紹介されました。

カントリーレポート 及び 論文セッション

カントリーレポートは7/8に韓国、香港、オーストラリア、7/9に台湾、インドネシア、タイからの報告がありました。論文セッションは10のセッションタイトルで34名の登壇により論議が行われました。

カントリーレポートは、韓国からは、韓国交通システム研究所長のKeung-Whan Young氏より、無線系ITSサービスとして、DSRC・UTIS(大都市向け交通情報収集提供)・VMC(車々間通信)の現状紹介があり、続いてCALMやWAVEなどのプラットフォームの開発状況について現状説明がありました。香港からは、ITS香港のPresidentのSam Pang氏より交通インフラを一層効率的・便利にするという立場に立ち、情報収集・提供システムや地域交通管理システム(ATC)や交通管理監視システム(TCSS)を中心に現状が紹介されました。インド・オーストラリアは、タイ首相の訪問と重なったため短時間での終了となりました。
インドネシアからは、交通省のDr.Elly Adriani Sinaga局長が登壇し、ジャカルタの交通問題として、交通渋滞とそれに伴う移動スピードの低下、自動二輪車の増加と高い割合の事故率、効率の悪い小型乗り合いバスが公共交通の人気移動手段、農村から都市への流入による爆発的な人口増加に追いつかない交通事情などの問題点の列挙がありました。これら増大する交通量を制御する手段として、ERPが最善と位置づけ、ERPを早急に導入すべく準備状況の説明が行われました。タイからは、運輸省運輸交通政策計画室の副局長のChamroon Tangpaisalkit氏より、2重行政に関する官庁の問題や標準化に対する認識不足、資金・知識・技術の不足などが指摘され、CMRT(道路交通管理委員会)はITSに関連する多数の官庁を統括する存在としてOTP(Office of Transport and Traffic Policy and Planning:運輸交通政策計画室)に問題解決の役割を与えていることが報告されました。

展示会

13ヶ国から22の企業・団体が出展しました。日本からは、三菱重工、住友電工、トヨタ、豊田通商、Forum8(現地企業2+ソフトとの共同展示)ITSJapanの5団体が参加したほか、Forum8社が現地提携企業を通じて出展しました。過去に経験のないといわれるほどの景気後退という不利な条件の中での展示としては、それなりに高い評価を与えられる物でした。

ITS Japanの展示

ITS Japanブースでは14枚のパネルと2台のディスプレイを使い、

  1. ITS in Japan (ITS-Safety2010とLong Term Vision 2030”の紹介)
  2. ITS サービスの紹介(準天頂衛星システムと関連サービス)
  3. ITS in Asia-Pacific (アジア各国のITSの取り組みを紹介)

の 3テーマで来場者に訴求しました。

期間を通じて多くの見学者が訪れました。来年打ち上げが予定されている準天頂衛星関連情報は特に注目を集めました。また今回は、タイやオーストラリアから取引パートナーを探すための助言(ITS製品の日本市場への販売ルート)について、数社から依頼や紹介がありました。

他の日本企業の展示

バンコク大会では、バンコクを東南アジアの生産拠点としているトヨタ自動車が支援を打ち出し、展示も昨年のシンガポール大会に比べ大掛かりなものとなりました。三菱重工はETCのパネル掲示やナビ関連車載器を出展していました。住友電工は、信号制御機、車両感知器など交通管制用機器を展示し、日本の信号制御技術をアピールしました。この他、豊田通商やForum8(現地提携企業である2+ソフト社名で共同展示) が出展しました。

ショーケース

交通システムデモンストレーションが設定され、タイの交通情報収集・配信予定のショーが1日3回行われました。

テクニカルツアー

約50名がTraffic Police Command CenterとMass Rapid Transit(地下鉄管制センター)を見学しました。

  • Traffic Police Command Center:1948年に創設。交通モニターセンターと電話センターが併設され、ラジオや電話での情報提供も運営しています。
    Mass Rapid Transit(地下鉄管制センター):2004年に開設された、バンコクでは初めての自動運転による地下鉄です。全長約1kmもある整備場の見学も合わせて行われました。

閉会式

閉会プログラムでは、Key Note Sessionのあと、今後のITS世界会議の紹介が行われました。最後にフォーラム閉会と次回開催の台湾(高雄市)へのバトンタッチが行われ3日間のバンコクAPフォーラムを終了しました。

付随イベント

KIWIセミナー

今回のAPフォーラムでは、以上の各セッションでの報告のほかに、Commercial Session Sponsorという形で参加いただいたカーナビ用地図の標準フォーマットの普及促進団体であるKIWI-Wコンソーシアムのセミナーが7/9(17:00-19:30)に開催されました。セッションタイトルは、“Seminar on Standardization of Digital Map Data Format and the Mission of KIWI”で、タイの関係者中心の約30名の参加者に対しタイ語への通訳を介し分かりやすく説明が行われました。KIWIはカーナビの物理格納フォーマットの日本標準でありJISとして制定されており、セミナーでは、事務局の安藤弘幸氏が司会を務め、講師として、ISO/TC203/WG3議長である柴田潤氏、KIWIの理論設計者である角本繁氏、から説明が行われました。タイでは、GIS、交通情報システム、テレマテティックスが進展しており、デジタル地図の標準化が重要な時期となっており、非常にタイミングの良い企画になりました

まとめ

  •  開会式には、首相やタイ政府関係者が出席したこと、全国紙にも取上げられたこと、でタイにとって今後のITS普及への足掛かりとなるフォーラムとなりました。また、治安問題、新型インフルエンザおよびグローバルな経済状況の悪化を踏まえても、参加者や参加国数は過去のAP Forumに劣ることなく、会議は成功したと言えます。
  •  タイの交通事情は、ここ10年で空港と市内の高速道路建設、スカイトレインや地下鉄の公共交通機関等の整備により、従来より渋滞は緩和されていますが、いまでも市内の渋滞は激しく、今後関係省庁や民間との連携による、ITSの開発や導入が期待されています。
  • 今回のフォーラムでは、アジア諸国・地域のITSの開発・導入の発表の内容に関して、従来より課題などを掘り下げていること、また、二輪車の混合交通、安全、標準化、教育やITS関係者の次世代育成、などについて共有の課題が議論されています。
  • ITS APフォーラムは今後とも、AP地域として、環境対応などの地球的な課題とアジア特有の課題の両面を議論する場としてますますその重要性を増し、ITS Japanとしても積極的に議論に参加していく必要があると考えています。