地域ITSフォーラム2022

アフターコロナ時代に向けた地域モビリティのあり方を考える
~地域で挑む「共創」の取組み~

 地方都市においては、少子高齢化、運転手不足、需要の減少等により、路線バスの減便や路線廃止等による「くらしの足」「おでかけの足」の維持・確保が厳しい状況にあります。加えて、交通事業者は新型コロナウィルス感染症対策による移動の減少によって厳しい事業環境に置かれています。このような状況下で、ITなどを活用して地域ぐるみで地域の足を維持・確保する取組みが芽吹いていると同時に、それを支える国の政策・支援も進んでいます。
 地域ITSグループでは、地域活性化/地域の価値向上に資する地域モビリティの「共創」にフォーカスし、その課題や対策・持続可能性等について、先進自治体や国・有識者に取り組み等について講演いただき、会員企業や関係省庁、自治体(特別会員)で議論・共有する場として、『地域ITSフォーラム2022 アフターコロナ時代に向けた地域モビリティのあり方を考える ~地域で挑む「共創」の取組み~』を企画・開催しました。

⇒講演資料のダウンロードはこちら(会員限定ページ)

■開催プログラムと概要
 ◇日時:2022年12月13日(火)13:00~17:15
 ◇場所:AP浜松町RoomーA(Zoomウェビナー併用によるハイブリッド開催)
        東京都港区芝公園2丁目4−1 B1F 芝パークビルB館
 ◇プログラム:
  ○第1部 講演 13:00~15:20(Zoomウェビナー)
    基調講演:福島大学人文社会学群経済経営学類 准教授 吉田 樹 氏
        アフターコロナ時代の地域モビリティ ―「共創」のデザイン
    講演:国土交通省総合政策局地域交通課 課長 倉石 誠司 氏  
        地域交通の『共創』によるリ・デザイン
    自治体の「共創」事例紹介:
     1)長野県松本市交通部公共交通課 課長 柳澤 均 氏
        地域のくらしの足、おでかけの足再編(官民連携)
     2)香川県三豊市政策部地域戦略課 課長補佐 真鍋 裕亮 氏
        デジタルで変わる三豊ベーシックインフラ整備の取組み(地域社会の共助)
  ○第2部 グループ討議 15:30~16:30(リアル開催)
  ○第3部 グループ討議結果&まとめ 16:35~17:15(リアル開催)

 第1部のZoomウェビナーでは、地域によっては崩壊しつつある地域のくらしの足、おでかけの足を支える公共交通の現状の俯瞰に加えて、先行地域では知恵と工夫の「共創」で移動手段の確保を進めつつあるなか、これからの地域モビリティサービスの維持確保に挑む『共創』のポイント等について、福島大学の吉田准教授に講演いただきました。また、国の政策支援(地域の「共創」への取組みを後押し)や、アフターコロナ時代に向けた地域交通の共創に関する研究会、アフターコロナに向けた地域交通の「リ・デザイン」有識者検討会の背景や取りまとめの解説、今後の取組み等について、国土交通省総合政策局地域交通課の倉石課長に講演いただきました。さらに先進自治体における「共創」の取組みとして、バスの公設民営化(官民連携)を進める長野県松本市の柳澤氏、及び「交通×他分野」の共創に取組む香川県三豊市の真鍋氏に講演いただきました。
 第2部のグループ討議では3つのグループを作成し、登壇者とITS関係府省庁さま、会員企業の皆さま、ならびに事務局メンバーも加わって、実際に「共創」を進める上でキーポイントとなるであろう事柄についてディスカッションを行い、第3部として、各グループでディスカッションした概要を報告しあうことで参加者全員で討議結果を共有しました。
 登壇者、ITS関連府省庁、特別会員、会員企業、事務局含めて、約120名の参加がありました。ご参加ありがとうございました。

■第1部:講演Zoomウェビナー)

◇基調講演:福島大学人文社会学群経済経営学類 准教授 吉田 樹 氏
 テーマ:アフターコロナ時代の地域モビリティ ―「共創」のデザイン

 ✔ 地域モビリティでは、デマンド交通などの“葉の交通”が注目されが
  ちだが、地域を支えるためには路線バスなどの“枝の交通”が不可欠
  である。
 ✔ “枝の交通”では、交通事業者間あるいは目的地となる施設などの異
  業種との共創により、「生産性の向上」と「便利さ・わかりやすさ」
  の両立を図るなど、「魅せ方」改革が必要であり、それを地道に継続
  することで、利用者が増えまちも活性化する。青森県八戸市や岩手
  県北上市等はそのよい実例である。
 ✔ 交通事業者と地域との「信頼」醸成が重要である(この会社だから
  安心して免許返納できた、等)。
 ✔ 複数事業者・モード、目的地が提供するサービスのインテグレートを推進するため、公共交通の
  「データ連携」と「オープン化」の促進が必要。また、「データ活用」により公共交通の課題が可
  視化されることで、課題発見の迅速化も期待できる。
 ✔ 「共創」は目的ではない。「共創領域を豊かにすること」が必要。

 
               出典:地域ITSフォーラム2022 吉田准教授資料

◇講演:国土交通省総合政策局地域交通課 課長 倉石 誠司 氏
 テーマ:地域交通の『共創』によるリ・デザイン

 ✔ 国交省では地域交通サービスの質・持続性を向上し、共創を推進す
  るため、「アフターコロナ時代に向けた地域交通の共創に関する研究
  会」「アフターコロナに向けた地域交通の『リ・デザイン』有識者検
  討会」を立ち上げた。
 ✔ 地域交通は「共創型交通への転換」が必要であり、医療×交通、
  教育×交通など、分野間共創の実装をめざした「共創モデル実証プロ
  ジェクト」を推進中である。実証運行等への予算補助等支援をしなが
  ら、事業スキーム構築等の課題を整理、横展開を目指している。
 ✔ 地域交通のリ・デザインは、重要政策課題への処方箋として、「骨
  太方針」や「デジタル田園都市国家構想基本方針」(いずれも
  2022年6月閣議決定)などの、政府の各種方針に位置付けられて
  いる。
 ✔ 「交通DX」「交通GX」「3つの共創」の3本柱により、地域交通を「リ・デザイン」し、利便性・
  持続可能性・生産性を向上させる。「交通DX」「交通GX」については経営改善支援事業を、「3つ
  の共創」については共創モデル実証プロジェクトを推進し、実装に向けた支援をしている。
 ✔ 地域ぐるみで進めていくことが重要。


               出典:地域ITSフォーラム2022 吉田准教授資料

◇自治体の「共創」事例紹介:
1)長野県松本市交通部公共交通課 課長 柳澤 均 氏
  テーマ:地域のくらしの足、おでかけの足再編(官民連携)

 ✔ 地域公共交通は社会インフラであるとの考えから、運行委託型の公
  設民営バスの事業化を推進中である。行政が路線バス事業に主体的に
  関与することで、持続可能な交通サービスの提供を目指している。
 ✔ 公設民営化によって、「エリア一括運行委託」と、利用状況と住民
  要望を踏まえた運行ルート・ダイヤとする「ネットワークの充実」を
  実現する。
 ✔ 住民の意見・要望の吸い上げは、アンケートのほか、説明会(24
  回)や多事争論会を開催することで実施した。
 ✔ 長期契約(5年間)によるエリア一括運行委託を採用した。交通事業
  者が設備投資等の計画を立てやすくなるというメリットが得られる。
 ✔ 2023年4月より官民連携による運行をスタート予定。

2)香川県三豊市政策部地域戦略課 課長補佐 真鍋 裕亮 氏
  テーマ:デジタルで変わる三豊ベーシックインフラ整備の取組み(地域社会の共助)

 ✔ 2006年に7町が対等合併しており、多極分散型のまちの構成となっ
  ている。合併時にはタクシー事業者はそれぞれの町に1社ずつあった
  が、現在は一部の地域で事業者が撤退し空白地域が生まれている。地
  域交通の存続に危機感を持っている。
 ✔ ベーシックインカムからベーシックインフラへ舵を切り、三豊に住
  む住民や地域事業者が一緒になって「幸せを感じる暮らし」に必要な
  インフラを整備することが狙い。
 ✔ ベーシックインフラの実現のためにデジタル田園都市国家構想交付
  金を活用する。まずは、データ連携基盤を開発し、ベーシックインフ
  ラサービスの開発・実証といった“共助のモデルによる仕組みづくり”を、2023年3月までに行う。

■第2部:グループ討議(リアル開催

第2部では3つのグループを作成し、グループ毎に以下のディスカッションテーマを設定したうえで、登壇者を交えてディスカッションを行いました。ディスカッションテーマとしては、本フォーラムのテーマである「共創」を実際に進める上でキーポイントとなるであろう事柄としました。

 ✔ Aグループ:地域の担い手* のモチベーション向上について
       *行政(自治体)/ 交通事業者/ 住民・利用者
   地域交通の好循環を生み出している地域では、交通の担い手のモチベーションが高いことが
   特長的である。「共創」による地域交通再興を成功させるためにも、担い手のモチベーション
   向上は重要と考える。どのようにしたら地域の“担い手”がやる気になるのか、なれるのかを
   議論した。

 ✔ Bグループ:住民参加型の地域交通の構築について
   生活を支える「くらしの足」、生活の楽しみを支える「おでかけの足」を充実させるには
   住民の声(ニーズの拾い上げ)が欠かせない。自治体主導による地域のモビリティサービス
   構築に、住民の要望を生かすにはどうしたらよいかを議論した。

 ✔ Cグループ:地域経済を支えるための共創について(ベーシックインフラ)
   地域経済の維持・発展(地域再生/活性化)を目指すなかで地域交通を生活に必要な仕組みの
   一部ととらえるベーシックインフラについて、その可能性や実現するための方策・課題につい
   て議論した。

第3部:グループ討議結果及びまとめ

 各グループからディスカッションの結果を発表いただき、参加者全員でグループ討議の結果を共有しました。
 「地域の担い手のモチベーション向上」について議論したAグループからは、事業者のモチベーション向上の観点として、事業者-行政間に適度な緊張感をもたせ、データドリブンの運営を行うようにすることが重要との意見がありました。また、住民のモチベーション向上の観点としては、デマンド交通などのファーストワンマイル及びその乗り継ぎを、自家用車の利便性にいかに近づけた形で整備できるかが重要で、それが実現できれば公共交通への転換も進みそう、との意見が多くありました。
 Bグループでは、「住民参加型の地域交通の構築」について議論しました。住民にとって地域交通を“自分ごと”にしてもらった上で、住民のあらゆる層からの声を聞くこと、その際に、データやツールに加え行司役(第3者)の活用が重要である、とまとめました。住民の意向に沿って実施しても使われないようであれば見直しも必要であること、利害関係者をつなげる第3者(翻訳者/行司役)の活用も重要であることが共有されました。
 Cグループは、「地域経済を支えるための共創(ベーシックインフラ)」について、①第1部の講演を聞いて三豊市真鍋氏に聞いてみたいこと ②ベーシックインフラの活用をどう考えるか ③合意形成の課題 の3つのサブテーマを立てて議論しました。
 ・ベーシックインフラは、悩みながらの現在進行形であり、まずはデータの集約に注力すること
 ・交通から取り組んで、みんなが動いて健康になってもらう方向を考えていること
 ・「共創」の合意形成には、広域連携の平等性や交通事業者間の利害関係といった課題があること
が共有されました。

 最後にまとめとして、福島大学の吉田准教授から以下の講評をいただきました。
  ・第1部では2自治体から「共創」の“開発途上”の状況を共有いただいた。「共創」は時間がか
   かるが、長く続けていくからこその価値がある。
  ・データドリブンな取り組みとアナログチックな課題の解決を合わせて進めていくことが重要
   である。
  ・多様な人が集まるからこそ、いろいろな知恵も出せるという面もあり、地元関係者のみで閉じ
   ず、地域外の、例えばITS Japanに関わっている人がうまく結びついていくことで、新たな
   イノベーションを起こすことができると考える。

■所感

 今回の地域ITSフォーラムは、地域交通の「共創」にフォーカスしました。第1部では、厳しい状況下でも“成功している/頑張っている”先進自治体の取り組みについて紹介いただきました。第2部では、実際に取り組みを進める上での課題や悩みもあることを、グループ討議を通して共有いただきました。吉田先生の基調講演や国土交通省倉石課長の国の政策に関する講演とあわせ、地域交通を考える上での気づきや多くの示唆がありました。「共創」とは、地域内だけでなく地域外のステークホルダーも含めて、地域交通の課題を“他人事”ではなく“自分ごと”としてとらえ、課題解決に向け知恵と力を出し合うことである、と再認識しました。店舗内にバス待合所を作るなど、分野を超えて「共創」することで地域が元気になる好事例も印象的でした。今後、このような「共創」が各地に増え、地域交通の維持・確保につながるよう、地域ITS活動に取り組んでいきます。

お問い合せ

特定非営利活動法人 ITS Japan
地域ITSグループ <region@its-jp.org>
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