中国道路交通信息化委員会

ITS Japanは、プロジェクト型委員会である「中国道路交通信息化委員会」にて、中国への道路交通情報配信システムの展開活動を行ってまいりました。以下、2002年度から2010年度までの活動内容です。

活動の経緯

高度経済成長を続けている中国では自動車の普及も急速に進んでおり、それに伴う主要都市での交通渋滞が大きな問題となってきていました。また、2007年の北京でのITS世界会議、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万国博覧会と世界的なイベントに向けて交通問題の解決は重要課題のひとつであり、ITS Japanは日本で実用化されていたVICS(道路交通情報通信システム)にてこの問題を対処すべく活動を推進してきました。活動は3つのフェーズに大別されます。

先行検討(2002年~2003年)

 2002年末、日本のVICS(注1)のようなシステムを導入したい意向が北京市公安交通局から示されたのを契機に、関係省庁と財団法人道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)とともに検討をスタート、ITS Japan会員企業有志により勉強会を行い、北京市、上海市の関係者を訪問しました。

研究会発足から北京市でのサービス開始まで(2004年~2008年)

 2004年2月、日本から光ビーコンと車載器を持込み、北京にてセミナーと試乗会を実施。交通情報をリアルタイムに表示する機能,迂回ルートを自動的に検索する機能などのデモを行い中国側から大きな反響を集めました。4月にITS Japan内に「中国VICS構築に関する準備会」を立ち上げ、6月に北京市交通工程学会(注2)主催、社団法人国際建設技術協会(国建協)とITS Japanが共催してセミナーと検討会を実施、10月、ITS Japan内に「中国VICS構築支援研究会」が正式に発足した。2004年のITS世界会議愛知・名古屋では北京市副市長を団長に中国訪日団がタクシープローブのショーケースを見学、2008年の開催が決まっていた北京オリンピックに向けた具体的な動きが始まりました。2005年6月、研究会は「中国道路交通信息化研究会」と名称を変更、北京市以外に上海市、大連市においても導入検討を進めました。2006年、北京市交通信息中心(BTIC)(注3)が主体となり、日本が技術支援を行いながら北京市での実験を進め、12月に「第1回北京交通情報の応用とサービスに関するフォーラム」が国家ITS系統工程技術研究中心(ITSC)、北京市交通信息中心(BTIC)の主催、ITS Japanの協力で約300名が参加して開催され、BTICが開発したRTIC方式(注5)の道路交通情報通信サービスが公開され、体験試乗会が行われました。このデモシステムは4,000台のタクシープローブ情報をもとに作成した交通情報をFM多重放送(FM-DARC方式)によりカーナビに提供するものです。

2007年4月、研究会は会員企業18社(幹事会員10社、一般会員8社)がメンバーとなり、「中国道路交通信息化委員会」というプロジェクト型委員会となりました。9月にBTICは日本製のカ-ナビ100台を購入して実証実験を開始、10月に開催された北京でのITS世界会議ではRTIC方式を採用したカーナビが多数出展されました。2008年4月、「第2回北京交通情報の応用とサービスに関するフォーラム」において北京市の交通情報配信が実用化に入ったことを強調、中国製受信端末が発表されました。7月、北京世紀高通科技有限公司(注4)が北京市においてRTICと欧州のRDS-TMC方式の2方式を同時に提供する世界初の商用サービスを開始し、8月の北京オリンピックでは、オリンピック車両に交通情報が提供されました。更に12月には、上海、広州、深圳においてサービスが開始されました。

RTIC展開状況と中国道路交通信息化委員会の終息(2009年~2010年)

2009年度以降、中国各都市でのでの交通情報システムの普及状況を調査してきましたが、RTIC方式は北京市、上海市、広州市、深圳市をはじめとし、2011年3月時点で16都市までサービスエリアが拡大しています。今後も毎年6~10都市のペースでサービスエリアの拡大が計画されています。一方、先行していた北京市や上海市では、配信する交通情報を当初より細かい範囲まで広げたサービスの高度化や、簡易図形を用いた経路誘導サービスを付加するなど、独自の進化を遂げており、ITS Japanの中国道路交通信息化委員会はその役割を十分果たしたとの判断から2011年3月末をもって終息させることにしました。なお今後、2011年度よりのスタートする新中期計画で掲げているアジア太平洋地域での情報収集、支援活動に委員会活動を通じて蓄積したノウハウや人脈を有効に活用していく計画です。

【RTICサービスの普及都市(2011年3月時点)】
  2008
年:北京市、上海市、広州市、深圳市
  2009年:成都市、重慶市、南京市、瀋陽市、寧波市、天津市
  2010年:蘇州市、福州市、東莞市、長沙市、佛山市、珠海市

 

 

 

【中国での道路情報配信システムの方式について】
日本でのVICSは、路側センサーが充実し渋滞情報の収集は既に確立できており、VICSリンク地図の整備、車載器への配信の仕組みを確立すればよい状況でした。またナビゲーション本体と一体で、FM放送(FM DARC方式)で配信できるため、スムーズに立ち上がりました。これに対し中国では路側センサーの情報が公安管理であるため使用できないことから、タクシープローブによる交通情報収集という仕組みで(RTIC方式)で対応し、中国独自の収集系システムが出来上がりました。VICSリンク地図については、ほぼ対象の市に限定したものでよいためメッシュ数が絞られ、比較的早期にシステムの実現環境が整いました。具体的な技術課題については日本の技術者が個別サポートを行い立ち上げの支援を行いました。BTIC(北京市交通信息中心)はこの事業を主導し、四維図新(地図の作成)と世紀交通(RTICシステムの構築)を支援し大都市(上海市、広州市、深圳市)でのRTICシステムを構築し、運用できるようにしました。なお、中国では欧州のRDS-TMC方式についても同時に運用されています。

(注1)VICSVehicle Information and Communication System):VICSとは渋滞や交通規制などの道路交通情報をリアルタイムに送信し、カーナビゲーションなどの車載機に文字・図形で表示する情道路交通情報通信システム。日本では、財団法人道路交通情報通信システムセンター(略称・VICSセンター)が収集、処理、編集した道路交通情報を通信・放送メディアによって送信し、カーナビゲーションなどの車載器に文字や図形(地図など)として表示させている。
(注2)北京市交通工程学会:交通問題を専門とする中国の学術団体
(注3)北京市交通信息中心(BTIC:Beijing traffic information center):北京市交通委員会の下部組織であり、業務は日本の道路交通情報センターにあたるが、日本の技術支援でITS技術を北京以外の都市にも普及させる活動なども行っている。
(注4)北京世紀高通科技有限公司(CennaviTechnologies Co., Ltd):北京市が北京航空航天大学との共同出資で設立。2005年に始まった北京市交通情報センター(BTIC)と北京航空航天大学との官学共同プロジェクトがベースとなっており、RTIC技術による交通情報収集、処理、配信をリアルタイムにおこなう交通情報サービスプロバイダーであり、北京市をはじめ、中国の主要都市への運用の展開をはかっている。
(注5)RTIC(Realtime Information in the Cockpit):FM放送から受信した交通情報をリアルタイムにナビゲーション画面の地図上に表示し、ドライバーが交通情報を即座に確認できるナビゲーションシステム。